2017年05月05日

熊野古道小辺路プロローグ

「ファストパッキング」という言葉があるらしい。

「軽装でより速く、より遠く」を主目的とした登山スタイルで、「ライトハイク」とか「ウルトラライトハイク」というような呼称もあるとか。

こういうスタイルに興味を持ったのはもう何年も前のことで、3年ほど前には軽いシェルターやシュラフ、アルコールバーナーなどを購入して、実行への準備を進めていた。

しかしその頃はまだ日帰りトレランで行きたいルートがたくさん残っていたので、重いザック(日帰りトレランに比べれば)を担いでの歩き山行はなかなか思い切るチャンスが巡って来なかった。

日帰りトレランはもう数年続けていて、さすがに京阪神や奈良、和歌山北部くらいの日帰りエリアでは興味をそそられるコースが見いだしにくくなってきている。

登山のベテランが好む「地図に無い不明瞭なルートを地図とコンパスを駆使して踏破する」というようなスタイルは私は興味が無い。

そうなると新たな世界に進出しようとすると「ファストパッキング」しか無かった。つまり日帰りではなくて宿泊を伴う山行ということ。

「山を走る」という行為に対しても以前ほどの意欲は感じられなくなってきたし、ひょっとしたら一度限りになるかも知れない道を真夜中にヘッドランプで通過するだけというのはもったいないんじゃないかという気持ちも出てきた。

アルプスの長距離縦走なども以前からやってみたいと思っていて、体力的なことを考えると残された時間はあまり多くない。

ここ2〜3年のうちに実行に移さないと、永久にチャンスを失ってしまうかも知れない。

山をやらない人はよく「山は逃げない」などと言うけれど、山を続けているある程度以上の年齢の人であれば「日に日に山は遠ざかっていく」ということを誰しも認識しているはずだ。

「ファストパッキング」というスタイルが先か、「ロングルート」という対象が先だったのか、それは自分でもわからない。

いずれにしても「機が熟した」のだ。

せっかくのゴールデンウィークだけれど、いきなり3日も4日もというわけにはいかない。物事には順序というものがあるし、特に登山のような何某かの危険を伴う行為においては、段階を踏むということは極めて重要だ。

この冬は久しぶりに何度か雪山へ行って、雪山の楽しさを思い出したので、本音を言えばアルプスのようなたっぷり雪の残る高山へ行ってみたいところだったが、さすがにいきなりというわけにはいかない。

重い荷物を背負って雪だ岩だとやっていたのはもう 20 年以上も前のことだ。

まずは雪の無い、しかもあまり気温の下がらないエリアで、1泊2日くらいで装備のことや身体のことを確認することから始めなければならないと思った。

そこで見つけたのがこの「熊野古道小辺路(こへち)」。高野山から熊野本宮大社までの公称約 70km。

調べたところではいくつかある熊野古道の中ではいちばん距離が長くて厳しいとされている(大峰奥駆道を除けば)。

しかしこの「厳しい」というのは「参詣道としては」ということで、登山の視点で見るとほとんどハイキングコースのようなレベルだ。

しかし途中に標高差 800m から 900m の峠を3カ所越えなければならないので、一気に行こうとすると体力的にはなかなか「厳しい」とは言えるだろう。

それと、途中で何カ所か集落に出るけれど、コンビニのような便利な店はまったく無く、せいぜい自動販売機がある程度(終盤には温浴施設と道の駅がある)。公共交通機関も限られたルートのバスが1日にほんのわずか運行されているだけなので、途中敗退は非常に難しい。スタート地点とゴール地点の交通機関は安心できるので、高島トレイルよりはマシだけれど。

一般的には途中の集落で宿を取って、2泊3日か3泊4日で歩くそうだ。

そこを私はファストパッキングで1泊2日で抜けようと企てた。宿泊装備は背中に背負っているので、宿泊地を決める必要は無い。行ける所まで行くだけだ。

小辺路は他の熊野参詣道に比べると宗教的な歴史はあまり古くなく、元々物資の運搬のために利用されていた生活道路が近年になってから参詣道として利用されるようになったらしい。

しかしその路も道路の整備や集落の衰退などで次第に利用されなくなって、参詣道という位置で何とか生き残っているということかも知れない。

実際に歩いてみると、宿や茶店の跡はたくさんあるけれど、宗教的な遺物は少ない(例えば大峰の「靡(なびき)」のようなもの)。

物資を運搬するための生活道路だったせいか、平坦で単調な道が延々と続くという箇所が多く、山歩きとしての魅力には乏しい。展望もあまり無く、淡々と足を前に進めるだけだ。

特に西中から昴の里までの 7km 以上に及ぶ車道歩きはただただ忍耐のみである。

今回初登場となった装備は、まずはモンベルのシェルター

フレームとペグを入れても 1kg くらい。

猛者は「タープ」という、大きな風呂敷をロープで張っただけようなもので過ごすようだけれど、私は建てる手間を考えて自立式のドーム型がほしかった。ツエルトは建てるのが面倒だ。

シュラフはファイントラックのポリゴンネスト 2x2

この「2x2」というモデルは今は無くなっているようで、とにかく薄くて軽い。ゴアテックスのシュラフカバーに毛が生えたくらいのサイズだ。

宣伝上手なファイントラックの「濡れても保温力があまり落ちない」という文句につられてネットで買ってしまったけれど、こんなペラペラで本当に寝られるのだろうかという不安を感じるシロモノ。

しかしシュラフの快適さを大きく左右するのは中綿(もしくはダウン)の量よりも、地面に体温を奪われないようにするマットの質である。

最近、購入したのは「山と道」のU.L.Pad15L

ファストパッキングのベテランはマットはお尻の下あたりまで(120cm くらい)で十分と言うけれど、私は足先が冷えるのが心配なので、全身サイズにした。これをシュラフの中に入れる。

今回は到着後の防寒具兼就寝時の保温のために薄い中綿のジャケットと薄いダウンパンツを持参した。

アルコールバーナーは FREERIGHT のTrinity ONE

アルコールバーナーはとにかく軽いし(わずか 20g !!)、故障の心配もまず無い。燃料もコンパクトで安い。

ただしガスやガソリンのバーナーのように火力の調節や点けたり消したりはできない。入れたアルコールの分量で燃焼時間を調節するので、長時間煮込むような調理はできない。

そしてできれば使いたくない携帯用浄水器

夕食は以前も利用していたジフィーズのアルファ米と乾燥おかず。久しぶりに登山店に買いに行ったら、昔のような四角いパックに2食分が入ったアルファ米は無くなっていた。

問題は行動食で、ファストパッキングのベテラン達はドライフルーツやミックスナッツなどだけで何日も過ごすらしいが、それで十分なエネルギーが補給できるのだろうか。

日帰りトレランの時はおにぎりやパックサンドなどを持って行くけれど、ファストパッキングの試行としてはやはり乾燥系のものを試しておく必要があると思って、食べ応えのある炭水化物系は我慢して、ジェルの他にミックスドライフルーツと一口サイズのチョコケーキ、ソイジョイ、甘いものばかりでは飽きるので小さなサラミ。そして登山店で見つけた乾燥餅のいそべ餅を持った。

ザックに詰めて重さを計ってみたところ、水を入れない状態で 7〜8kg くらいだった。水を入れても 10kg 以下に収まった。

それでも日帰りトレランに比べると倍くらいの重さで、体感的には「重っ!!」。

さらに不安は、二日連続の行動にどこまで耐えられるかということ。

連続行動時間 20 時間くらいは何度も経験しているけれど、いずれも軽装で、途中で何かあっても何とかなるような環境ばかりで、睡眠時間はしっかり取れたとしても、翌日どれくらいの体調になっているかはわからない。

そんなこんなで、期待と不安の入り交じった気持ちで当日の朝を迎えた。
posted by まつだ at 15:42| Comment(0) | ファストパッキング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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